大判例

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大阪地方裁判所 昭和28年(タ)1号 判決

原告 寺田久

被告 寺田萬次郎

一、主  文

原告と被告とを離婚する。

被告は原告に対し金参拾万円及び、その内金十万円に対しては昭和二十八年二月一日より、その余の金弐拾万円に対しては本判決確定の翌日より、夫々右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うことを命ずる。

原告その余の請求は棄却する。

訴訟費用は之を三分し、その一を原告の負担とし、その他を被告の負担とする。

本判決中第二項の内金拾万円の支払部分につき原告に於て金参万円を担保に供するときは仮に執行することができる。

二、事  実

原告訴訟代理人は、原告と被告とを離婚する、被告は原告に対し金七十万円及び之に対する昭和二十八年二月二日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに金員支払部分に付担保を条件とする仮執行宣言を求め、その請求原因として、原告と被告とは昭和六年八月二十四日婚姻届出をした夫婦であつて当時被告は巡査として極めて貧しい生活をしていたが爾来、原被告間には長男喜哲(二十才)次男{日女}久(十六才)三男弘(十二才)の三子をもうけている。ところが被告は昭和十八年末頃より訴外中島トシエと情を通ずるに至り、同女は時々原被告の住居に出入していたが、昭和十九年春頃被告は蒲団を持つて家を出て同女と同棲するに至り以来、時折原告の許に帰るのみで現在に及んでいる。その後原告は三人の子供を抱えて被告の留守を守り月々僅かの被告の仕送りで貧しい生活を続けて来たが、被告は何かと理由を造つて原告を追い出さんと計画し、無理難題を持ちかけ或は暴力を振う等のこともあり之が為に原告は近所の人の救助を求めることも再三であつたが遂に昭和二十七年一月二十八日には、被告は原告の胸倉をとつて横顔面を数回殴打し、自動車を呼んで、運転手に命じて強いて原告を荷物と共に原告の兄の家に運搬せしめて原告を家から追い出し爾後原告に対し何等生活費を与えず悪意を以て原告及子供等を遺棄したもので子供等は被告を恐れて原告から離れない状態最早被告との婚姻を継続することは出来ない。仍つて原告は被告との離婚を求める為めに大阪家庭裁判所に調停の申立を為したが不調に終つた然るに右離婚の責任は総て被告にあり原告の之れに基く精神上の苦痛は甚大であるところ被告は大阪市生野区北生野町五丁目五番地に十万円相当の家屋を所有する外と現金百五十万円位、銀行預金と営業資金百万円位合計二百五十万円の財産を有しているから右離婚と同時に財産上の分与として金百万円の内金五十万円及慰藉料として金二十万円合計金七十万円及之に対する本件訴状送達の翌日たる昭和二十八年二月二日から右完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めると陳述し、被告の答弁に対し、原告に被告主張のような不貞の行為のあつたことは之を否認する、訴外米田正治は原告の近所に下宿していたが、偶夜遅く帰つて門戸を閉め出された為、同人の懇請により、夏の事でもあり一つの蚊帳の中で、子供を原告との間にして泊めてやつたにすぎず、又訴外鈴木徳治は教育者の関係で知合であるが、原告が夜間に同人を訪問した事は絶対にない。いずれも原告と疚しい関係はない。之を云々する事は被告が自己の不行跡を原告に転嫁せんとする策略である。と述べた。<立証省略>

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、原告主張事実中、被告が原告と原告主張の日に婚姻届出をなし、原被告間に三人の男児をもうけた事実、婚姻当時被告は警察職員であつた事実、被告が訴外中島こと藤本都志江と同棲している事実、被告が原告に毎月生活費仕送りをしていた事実、被告所有の原告主張家屋が時価十万円相当の価格である事実は認めるが、その余の事実は否認する被告が訴外藤本と同棲するに至つた原因は原告の不貞行為によるものである。即ち昭和十二年七月頃被告が勤務の都合で午前一時頃当時の北田辺の自宅まで帰宅した際、原告は容易に表戸をあけないのみか、被告が座敷に上る事を阻止する様子であり、玄関には男靴があつたので、被告は不審をたゞした処原告は兄嫁の弟に当る訴外米田正治が近くに下宿しているが、夜遅く帰つた為下宿の表戸をあけてくれないから泊りに来た旨申述べていたが座敷には同人と原告と共に同一の夜具に寝て、子供はその寝具の後に寝かせており、原告の不貞の行為を発見した。その後原告はこの問題の根本的解決を計らんとした矢先に応召した。又昭和二十五年六月頃、被告が勤務先から帰宅すると三男弘の担任教師である訴外鈴木徳治が被告方に来ており原告は同人に弁当箱を渡したり、同人が被告方を辞去するに際し、原告と同人は挨拶もなく馴れ々々しき態度であつたのみならず原告はその前後、同人が小学校の宿直の時は数回夜間訪問することがあつた元来有夫の婦が、他の男性を夜間に訪問するは余程親しい間柄か、或は不行跡な行為を前提とするものと考えられる。又被告は永年原告肩書地に居住していたが、その附近は子供の養育上好ましくないので、転居すべき家を物色してた折に、原告は昭和二十七年一月二十九日被告に無断で子供三人を連れ家財道具一切を持つて家出したので被告は同家屋の用心の為め施錠しておいた。処が原告は昭和二十七年二月初頃被告を相手方として大阪家庭裁判所に離婚調停の申立をなしその調停続行の最中同年七月初頃前記家屋の錠を切つて、再び同家屋を占拠したので、被告はその退去を要求したが原告は之に応じないのみならず、原告が前記家屋の錠を切つた時原被告間に多少の紛議があつた事を針小棒大に誇張し暴行傷害罪として大阪市生野警察署に被告を告訴し、同署に於て被告は罪人同様の侮辱的扱いを受け重大な恥辱を与えられたもので之が為に調停は難行し遂に昭和二十七年十一月に不成立に帰したのであつて被告は原告に重大な侮辱を与えるものである。以上の如く原告はむしろ妻として夫たる被告と同居する事を拒んでいるものであるから原告の本訴請求は失当である。と述べた。<立証省略>

三、理  由

成立に争のない甲第一号証、証人奥田宇佐松の証言及原被告各本人の供述によれば原告と被告とは昭和六年二月頃訴外奥田宇佐松の媒酌により事実上の婚姻を為し同年八月二十四日正式に届出をした夫婦でその間に喜哲、{日女}久、弘の三児を儲けたこと明である。そして証人奥田宇佐松、森綾江、高永米蔵、浅山定吉の各証言に原告本人の供述を綜合すれば原被告の婚姻当時被告は大阪府巡査を奉職し生活も楽でなかつたので原告は裁縫等の手内職によつて家計を補助し最初は家庭円満であつたが、被告は昭和十八年頃より訴外中島こと藤本都志江と情を通じてからは家をあけ勝ちになり原告の懇願にも拘らず同女との関係を続けた為、原被告間にも次第に円満を欠くに至つた。折柄戦時中原告は子供三人を連れて被告の生家に疎開した為、被告は会社の宿舎に寝泊りするようになり、同所で右中島都志江藤本と同棲生活を始め、一方原告は疎開先で被告からの若干の仕送りを受けて生活をしていたが、昭和二十四年頃原告は子供三人を連れて疎開先から大阪に帰住したにも拘らず、被告はアパートに於て中島と同棲し、自宅には週に二、三回位しか帰らず、それも夜は泊らず、一時間も家に落着かない状態であつた為、原告は被告の僅かの仕送りと原告自身の内職及時折は原告の兄の援助も受け辛うじて生活を続けていた。そして稀に被告が帰宅するや常に原告と争い時に暴力を振つて原告を虐待する為近隣の救助を求めることも再三あつたが、昭和二十七年一月頃には被告は原告と子供三人の住んでいた原告肩書住居から退去を要求し、原告が子供の通学の関係を考慮して之を拒絶するや被告は「云う事を聞かないなら三日間の猶予をやるから家を出て行け」等を申向けて原告を殴打し遂に警察官の仲裁を求めるに至りその揚句被告は深夜午前一時頃自動車を呼んで来て原告等を無理矢理に乗車せしめ運転手に命じて原告の兄の家へ送り届けその後は被告から原告への仕送りも絶つたので原告と子供三人は原告の兄の近所で倉庫のような建物を借りて兄の援助の下に生活していたが、其処も明渡を要求され、行く先に困つた為、再び元の家に帰住することになつた。処が被告は之を知るや「無断で家に入つた、三日の間に出て行け」と申向けて、又もや暴行に及び兼ねまじき気勢を示したので原告はやむなく大阪市生野警察署相談係に相談して、係員のすすめに従つて、被告の暴行から免れたい一念で被告を告訴した。その頃原告は大阪家庭裁判所に離婚調停の申立をなし、数回に亘り調停が試みられたが、昭和二十七年十一月遂に該調停も不成立に終り止むを得ず本訴を提起するに至つたことを認め得る然るに被告が現在に於ても右中島と同棲しておることは被告の自認するところで被告が同女と同棲するに至つたのは其の前に原告が訴外米田正治及同鈴木徳治との間に不倫の関係があつた為であると抗争するけれどもこの点に関する被告本人の供述はたやすく措信し難く却つて証人寺田喜哲の証言及原告本人の供述によれば訴外米田正治は被告の兄の子であつて昭和十二年中大阪市に於て巡査を奉職中偶止宿先に帰ることができなかつた為に親族たる被告の宅に一夜の宿を求めたに止まり又訴外鈴木徳松は原被告の三男弘の学校教師で昭和二十四年中弘が鈴木の弁当を託せられた為之を返還したもので同人等と原告との間に何等不倫の関係があつたものでなくむしろ右はいずれも単なる被告の疑惑にあらざれば原告を離籍せんが為に事を構うるものに外ならないことを推知するに難くない殊に米田正治の関係は被告が中島都志江と関係を生ずる数年前の事実であつて之を以て被告が自己の不貞の行為の口実とするのはたやすく容認し得ない、然らば被告が別に訴外中島と同棲し原告等に対しその住宅の明渡を強要し生活費を与えないのは明かに原告に対する不貞の行為であると同時に原告等を悪意を以て遺棄したものと云わねばならぬ従つて之を理由として原告が被告に対し離婚を求める本訴請求は正当であるから之を認容すべきものとする。

次に原告の慰藉料並びに財産分与の請求に付き案ずるに右認定の通り原告が昭和六年二月被告と婚姻以来被告を扶けその生活の資として内職に励み、或は妻として家事を担当し被告の放縦なる生活に耐えて忍び難きを忍び今日に及んだ事を考えれば被告は原告に対し相当額の財産を分与し且離婚に因り原告の蒙むる精神上の苦痛に対し慰藉料を支払うべき義務があること勿論である。そして当裁判所は右認定事実に成立に争なき甲第二号証証人寺田喜哲の証言及原被告各本人の供述により認め得べき原告の生活状況被告の資産関係今後の原被告の生活収入状況その他諸般の事情を斟酌するときは右慰藉料は金十万円、財産分与の額は金二十万円を夫々相当と認める従つて原告のこの点の請求は右限度で正当として之を認容し、その余の請求は失当として排斥する。而して慰藉料に対しては被告は本件訴状送達の日である事が記録上明白な昭和二十八年二月一日より完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があると云うべく、この点の原告請求は正当として認容すべきものとする。財産分与金に対する遅延損害金の請求については、元来財産分与の請求権は離婚を原因として発生するものであるから、それ以前に被告に於てこれを支払うべき義務を負担するいわれはないが、本判決確定後に於ては被告はその完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があると云うべく、この点原告請求は、右限度で正当として認容し、その余の請求は棄却することゝし、訴訟費用の負担に付民事訴訟法第八十九条第九十二条を、仮執行宣言に付き、同法第百九十六条を夫々適用して主文の通り判決する。

(裁判官 藤城虎雄 日野達蔵 角敬)

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